大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(ワ)10897号 判決 1974年4月15日

主文

東京地方裁判所昭和四四年(リ)第二四七号、第二六五号配当事件について、昭和四四年九月二六日同裁判所が作成した配当表の被告に対する配当部分を取り消し、右配当額を被告を除いた債権者に按分した配当表に変更する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、訴外株式会社天野商店(以下「天野商店」という。)に対し、東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第一三五一八号売掛代金請求事件の判決に基き、売掛代金債権元本金三二四万六、九七八円およびこれに対する昭和四三年八月二四日から昭和四四年六月二三日まで年六分の割合による遅延損害金一六万二、三四八円の合計金三四〇万九、三二六円の債権を有し、右判決の執行力ある正本に基づき、天野商店が訴外株式会社太陽銀行(以下「太陽銀行」という。)に対して有する定期預金等の債権につき同裁判所に債権差押命令を申請し、同裁判所昭和四四年(ル)第三一五七号債権差押命令(債務者、第三債務者に対する送達の日は同年七月一四日)をもつて、右債権を差押えた。

2  ところが被告は、原告の右差押に先立ち、被告と天野商店間の昭和四三年七月三〇日作成東京法務局所属公証人堀真道作成昭和四三年第一〇四八四号債務弁済契約公正証書(以下「本件公正証書」という。)の執行力ある正本に基き、天野商店が太陽銀行に対して有する前記定期預金につき、前記裁判所に債権差押命令を申請し、同裁判所昭和四四年(ル)第九三五号債権差押命令(債務者に対する送達の日は同年三月一九日、第三債務者に対する送達の日は同月五日)をもつて右債権を差押えていた。

3  そこで第三債務者である太陽銀行は同年八月二一日天野商店に対する残債務金一二六万七、八一四円を東京法務局に供託するとともに同月二五日前記裁判所に対し事情届出をなし同裁判所同年(リ)第二四七号として受理され、天野商店の訴外株式会社名取製作所に対する売掛債権として差押えられた金一七万一、三三七円(被告と訴外仲屋ブラシ工業株式会社の差押の競合により株式会社名取製作所において右金一七万一、三三七円を東京法務局に供託のうえ、右会社より同年九月六日同裁判所に事情届出がなされ、同裁判所同年(リ)第二六五号として受理されたもの)とともに、昭和四四年九月三〇日配当期日が開かれ、第三債務者の供託金一四三万九、一五一円のうち、金三〇万四、八三六円を原告に、金一一二万九、三二一円を被告に、金四、二六四円を仲屋ブラシ工業株式会社にそれぞれ交付する旨の配当表が作成された。

4  しかして、原告は右配当期日に出頭して右配当表につき被告の配当金額に異議を述べた。

5  ところで原告の右異議の理由は次のとおりである

(1) 前記のとおり被告は本件公正証書を債務名義として前記のとおり債権差押をなしたものであり、本件公正証書は被告の代理人である訴外曾根茂と、天野商店の代表取締役天野操とがその作成を嘱託し公証人のもとに出頭した形式をとつているが、本件公正証書の作成が嘱託された昭和四三年七月三〇日当時は右天野操は行方不明であつたものであり、右は、被告会社において天野商店から預り保管中の天野商店代表者印を冒用し、天野商店代表取締役天野操と地位、氏名を偽つた第三者をして、本件公正証書の作成を嘱託させたものというべく、したがつて本件公正証書は債務名義としての効力はないから、前記差押も無効であり、本件配当には加入できないものである。

(2) かりに、本件公正証書は天野商店代表取締役天野操の実弟である天野照男がその作成を嘱託したものであるとしても、同人は同商店代表取締役天野操と資格を偽つて本件公正証書に署名したものであり、公正証書は簡単な手続により債務名義たる効力を付与するものであるからその方式、要件は厳格に解すべきものとする趣旨に鑑みると、右のように本人であると詐称して証書作成の嘱託、署名までしている場合には公証人に対する適法な証書作成の嘱託自体を欠くものであつて、追完、追認の余地なく本件公正証書は無効というべきである。

(3) かりに右(1)の事実が認められないとしても、被告は昭和四五年七月二〇日ころまでに、天野商店債権者委員会に届け出た天野商店に対する債権金一、〇八〇万円のうち、一割に相当する金一〇八万円につき天野商店より右委員会を通じ弁済を受けたので被告の本件配当表に記載された債権額金一、〇八〇万円はこれより右金一〇八万円を差し引いた金九七二万円と変更すべきであり、その範囲内において被告の配当金額は変更せらるべきものである。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1ないし4の事実はすべて認める。

2  同5の(1)のうち本件公正証書が原告主張のとおりの形式でその作成が嘱託されたことは認めるが、天野操が原告主張のころ行方不明であつたことは知らない、その余の事実は否認する。

3  同5の(2)の主張は争う

かりに本件公正証書が天野操の不在の折に作成の嘱託がなされたとしても、本件公正証書は天野操の実弟である訴外天野照男が天野操より資格証明書、印鑑証明書、委任状等の交付を受け、その作成嘱託方を依頼されたものであつて、本件公正証書の天野操なる署名が天野照男によつて代筆されたものとしても、それは天野操の意思に基づきなされた署名の代理であり、公正証書に記載された具体的権利関係にはなんらの影響をも及ぼすものではないから、本件公正証書をもつて無効と断ずることはできない。

4  同5の3のうち被告が昭和四五年七月までに天野商店より金一〇八万円の支払を受けていることは認める。もつとも被告が支払を受けたのは右金一〇八万円を越える金一一六万七、九三六円であり、その半額は昭和四四年九月、残額を昭和四五年七月に支払を受けたものである。

三  抗弁

被告が天野商店より支払を受けた原告主張の金一〇八万円を含む、右金一一六万七、九三六円は被告の本件公正証書に基く債権以外の債権の弁済として支払を受けたものであり、本件公正証書に基く債権にはなんらの消長を与えるものではない。すなわち、被告は天野商店に対し、別紙一覧表のとおりの約束手形金(原因関係はいずれも売掛代金債権)合計金九八九万一、四九七円の債権および約束手形の授受がなされていない金一七八万七、八六三円の売掛代金債権、合計金一、一六七万九、三六〇円の債権を有していたところ、被告と天野商店は昭和四三年七月三〇日、右債権のうち最近の分から遡つて金一、〇〇〇万円につき公正証書を作成することにし、売掛代金一、〇〇〇万円と表示した公正証書を公証人に作成嘱託し、本件公正証書が作成されるに至つたものであり、本件公正証書より洩れた債務名義を有しない債権が金一六七万九、三六〇円なお残存していたが、被告は前記のとおり右総債権額の一割である金一一六万七、九三六円の支払を受け債権者委員会よりなんら弁済充当の指定もなかつたから被告においてその受領の際これを弁済期の最も早い別紙一覧表(1)の約束手形金の一部の弁済に充当したものである。

四  抗弁に対する答弁

抗弁事実のうち、被告が天野商店に対して有していたとする債権の数額、内容については知らない。

かりに被告の天野商店に対する債権額が被告主張のとおり金一、一六七万九、三六〇円であつたとしても被告が支払を受けた金一一六万七九三六円は本件公正証書に表示された金一、〇八〇万円とその余の債務名義のない債権とに按分して充当されるべきである。すなわち、任意清算の場合もその債権確定手続でその届出債権が債権者委員会でされ全体として一個の債権として確定されるのであり、弁済期の異同により個々の独立した債権がなお存在しているものというべきではないのであり、このように確定した一個の債権について弁済がなされた場合には個々の弁済期を考慮に入れることなく、せいぜい債務名義の有無に区分してそれぞれの額に按分比例して充当されるものと考えるべきである。したがつて、本件公正証書に基く金一、〇八〇万円の債権については金一〇八万円、その余の債務名義のない債権金八七万九、三六〇円については金八万七、九三六円につきそれぞれ充当されるべきであるから、本件配当表の被告の債権額金一、〇八〇万円とあるを金九七二万円と変更すべきこととなる。

第三  証拠(省略)

(別紙)

一覧表

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例